英語中国語通訳者の卵

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卒業論文をすべてWEBページにまとめてみた 1

1. はじめに 

今回、日本人英語学習者の実態を調査するため、総計約1300枚ものアンケートを大学生に配り、SNSを通じて多くのTOEIC Listening & Reading Test受験経験者にアンケートの協力を呼び掛けるという大掛かりな調査を行った。そのアンケート結果をTOEIC L&Rスコアを基準に、4つ、或いは5つの英語能力別の群に分け、そのそれぞれの群の英語自己評価やリスニングに対する苦手意識などについての回答結果を比較した。これにより英語が苦手な学習者と英語が得意な英語話者の何が異なる要因になっているかの実態を明らかにすることができた。 

 
2.研究内容 
2.1. 調査動機及び調査目的  

 留学のための TOEFL ITPテストのリスニングテストは激ムズである ~大学一回生~

 初めてリスニングに対する大きな苦手意識を抱いたのは大学入学直後に留学認可のために受けたTOEFL ITP テストだ。初めて経験する生の会話に近いその英語のスピード、アメリカ英語のアクセント、情報量の多さに全く処理が追いつかずに何度も集中力が切れ、回答すること自体は諦めなかったものの適当に塗りつぶしたマークの数は少なくなかった。しかし、留学ジュ王権のスコアは上回っていたため、周りと比べて自分の英語リスニング能力が特別低いとは思わなかった。このTOEFL ITPテストで帰国子女の生徒が満点近くのスコアを取ったことを後に噂で聞いたが、大学受験時の大学入試センター試験の英語テストでは毎回9割前後の得点をキープしてきたという成功体験をしてきたためにTOEFL ITPテストのリスニング試験が特別難しいのであって、帰国子女と比べても仕方がないという意識があった。

台湾10か月~大学二回生~

 留学先として、数ある英語圏の留学候補ではなく台湾を選んだ。第二外国語である中国語を学びながら英語も学ぶことができるという珍しさと、英語の勉強はもう十分だという思いから、英語と中国語を台湾で10ヶ月間生活しながら学ぶという選択をした。台湾留学で最初に出会った外国人のほとんどが英語の通じる台湾人や韓国人であったため、簡単な文法と受験英語で身に着けた英単語力を駆使すれば、意思疎通を簡単に取ることができた。また、1ヶ月が過ぎる頃には中国語も英語と同じように簡単な文法と単語を用いることで意思疎通をとれ始めるようになっていた。しかし、留学生活が半年を経過した頃のある出来事をきっかけにそれまでの外国語学習に対する認識を180度改めることになった。

語学学習の転機  ~留学6か月目~

 半年の語学学校の中国語での中国語学習のおかげで台湾人の先生との中国語での会話ではあまり不自由しないにも関わらず、現地の台湾人の友人の自然な中国語が全く聞き取れず、対面での会話のコミュニケーションに苦痛を感じるのだ。初めは中国語の単語力が足りないためだと思い、改めて中国語単語を大量に詰め込んだりもしたが、他の日本人留学生が台湾人の友人と楽しそうに会話するのを傍観し、米国留学経験者の帰国子女の友人たちが楽しそうにアメリカ人の友人と夜の街に繰り出すのを横目に見ながら、これまで自分の常識としてきた外国語学習や試験への攻略法に疑問を感じた。すなわち、ある程度の文法能力と豊富な単語力があれば外国語でのコミュニケーションがとれ、その二つの勉強が一番大事であるという固定観念である。結局その後の残りの4ヶ月の台湾生活では、最後まで現地の台湾人との自然な会話で大なり小なりストレスを感じ続けることになり、アメリカ人やスコットランド人などの英語母語話者と知り合っても、ひとたび英語母語話者内での会話になるとその自然な英語のスピードに理解が全くついていけず、会話の輪に入れないという歯がゆい思いを何度も経験した。

留学中での気づき ~留学9か月目~

 そういった状況に一筋の希望の光がみえたのは、留学9ヶ月目に差し掛かった頃であった。ある時、私たち日本人留学生の言語交換などで9ヶ月間ずっと交流していた台湾人の友人たちが教室の一室に集合した際、教室内のどの友人が中国語で発言したのかが、顔を確認しなくても、声だけで判別できていることに気づいたのである。それは初めて自身の中国語に対する言語の処理がこれまでの暗号解読のようなものとは全く別次元の領域に達していることを自覚した瞬間であった。それ以来、新しく出会う台湾人に対しても、知人の台湾人の誰々と声が似ていると感じるようになり、台湾人が話す中国語の声の個性やバリエーションが聞き取りの精度に影響していることを実感した。つまり、中国語を聞く際に、交流してきた台湾人の友人たちや先生などの声と中国語の声が似ているほど楽だと感じたのである。こういった経験から、英語についても様々な声に長期間聞き続けるべきだと考え、YouTubeや洋画、海外ドラマなどで、できるだけ老若男女様々な英語を聞く訓練を意識的に行い始めた。その結果、まず米英のアクセントの違いが初めてはっきりと認識できるようになり、聞き慣れている俳優やスピーカーが予期せず他作品に登場した際には、まずその声をきっかけすることができるようになるようになった。また、自然な英語に対する内容の理解にはまだまだ問題があるものの、初めて聞く英語話者の発話に今まで聞いたことのある英語話者との類似性が認識できるようになり、少しずつ聞き取りや集中力の維持に改善を実感するようになった。2年が経過した現在、今まで聞こえなかった英語や中国語の音がはっきりと認識できるようになり、今まで何度注意されても改善できなかった自身の英語や中国語の発音も劇的に改善していることに気づいた。

調査目的

 以上の個人的な経験が他の日本人英語学習者にもみられるのかどうか、また、英語の声や音に対する高精度の聞き取り能力がどれだけ英会話能力や英語の試験のスコアに関わっているのかどうかを明らかにするため、日本人英語学習者のリスニング能力と英会話能力の実態を明らかにすることにした。音響設備などを用いた実験を行えるのが理想的ではあったが。実施が困難な長期的な実験を行うよりも、実施が比較的容易なアンケートという調査方法を用いて、まずは様々な英語学習者の実態を調査することにした。結果として138人もの様々な日本人英語学習者のデータを分析できたことは大きな成果である。

2.2. 調査対象

分析対象は138名の日本人英語学習者のみである。その内訳は大学生及び短大生108名(78%)、大学院生及び修士課程、博士課程など6名(4%)、社会人24名(17%)であった。ただし、TOEIC スコアを用いて考察する際に過去の古いスコアで現在の英語能力を測るのは不適と考えられるため、TOEICスコアを保持していた105名(76%)のうちTOEIC受験が3年以上前になる大学生、大学院生、社会人の6名と大学一回生で最後のTOEIC受験が1年以上前であった被験者3名、合わせて9名を分析前に除外した96名とする。


2.3. アンケートの質問項目の内容について 

実験期間中にアンケートの質問内容や選択肢は、一部推敲や追加及び消去がされているが、調査の公平性と精度を損なわないために分析に影響の出るような質問や選択肢の表現やの順序に変更を行った際には、それまでのデータについては分析に含めないように注意し、内容についての大きな変更がないものだけを選び、入力していただいたメールアドレスを用いて、二重回答や除外すべき被験者のデータとの混合がないことを確認した。次の表2-1の質問項目は特に質問の表現や順序について大きな変更がなく、分析で使用できると判断したアンケート質問項目である。括弧の中の数は選択肢の数を表している。

表2-1. 分析に使用できるアンケート質問項目

1. 最後に受験した判明済みのTOEICのスコア(13)

2. TOEIC L&Rスコアの大体の取得年月(11)

3. 英語圏への留学および生活経験(9)

4. 英語の自己評価(8)

5. ネイティブ(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア人のみ)との英会話レベル(7)

6. 子供の頃の英語圏での生活の有無(自由記述)

7. ECCや英会話イーオンなどの語学学校への通学歴(自由記述)

8. 英語以外で学習したことのある言語(14)

9. 上で答えた英語以外の言語の一番得意な言語のレベル(14)

10. 英語リスニングへの苦手意識に対する18の質問(6)

11. 英語リスニングへの自己の問題意識に対する質問(自由記述)

12. イギリス英語やアメリカ英語等のアクセントへの気づきや意識の有無(TOEICやリスニング試験)(6)

13. イギリス英語やアメリカ英語等のアクセントへの気づきや意識の有無(TVニュースや会話など試験以外の日常生活)(6)

14. 米アクセントと英アクセントの米英の聞き分け(6)

15. 米英話者の自然な英語からの出身地の聞き分け(6)

16. 所属する大学及び出身大学、学部、学年など


 3. 公開資料や先行研究 
 3.1.1. TOEIC® Listening & Reading Testのスコアについて

 IIBC(一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)はホームページでTOEIC L&Rの平均スコア・スコア分布を毎回公開している。次の表は公開されているデータをもとに第217回~221回(2017年1月~6月)の平均スコアをまとめたものである。毎回の平均点に若干の差はあるもののTOEIC L&Rスコアの平均点は580点前後になるようだ。表から分かるように、リスニングスコアの方がリーディングスコアより55点ほど高いことがわかる。

表3-1. TOEIC L&R Test 第217回~221回(2017年1月~6月)の平均スコア

 

L&R

Listening

Reading

差(L-R)

第217回(2017年1月)

574.3

310.1

264.2

45.9

218回(2017年3月)

569.2

309.8

259.4

50.4

第219回(2017年4月)

585

323.3

261.7

61.6

第220回(2017年5月)

586.8

321.5

265.3

56.2

第221回(2017年6月)

579.4

319.3

260.2

59.1

平均

579

317

262

55

標準偏差

7

6

3

6

 

 3.1.2. Score Descriptor Table(レベル別評価の一覧表)リスニングセクション

 IIBC(一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)のホームページにて、Educational Testing Service の調査を元にしたTOEIC L&R スコアのレベル別評価の一覧表が公開されている。これにより受験者が取得したスコアをもとに、英語運用能力上の長所や短所を確認することができる。次の表はリスニングセクションでのレベル別の弱点をまとめたものである。リスニングテストのスコアだけではTOEC L&Rスコアとの単純な比較が難しいと判断したため、あくまで参考にだが、括弧の中に予想スコアを挿入した。

 (リスニングよりもリーディングの方が55点程度低いことを利用してリスニングスコアを2倍したものから50点引いたものを予想スコアの参考値として採用してある)

 

表3-5. リスニングスコア495~375(990~700)の弱点

Weakness(弱点)

解答する際に、あまり使用されない文法や語彙が出てくるときにのみ、弱点が認められます。

 

表3-6. リスニングスコア370~275(690~500)の弱点

Weakness(弱点)

短い会話において、応答が間接的だったり、簡単に予測できないとき、もしくは語彙が難しいときは、話の主旨、目的、基本的な文脈の理解が困難である。

長い聴解文において、広い範囲にわたって情報を関連付ける必要があるとき、もしくは難しい語彙が使用されるときは、話の主旨、目的、基本的な文脈が理解できない。

短い会話において、構文が複雑なときや、難しい語彙が使われている場合は、話の詳細が理解できない。否定構文が使用されるときは、詳細が理解できないことが多い。

長い聴解文において、広い範囲にわたって情報を関連付ける必要があるとき、もしくは情報が繰り返されないときは、話の詳細が理解できない。言い換えられた情報、または難しい文法的な構造はほとんど理解できない。

 

表3-7. リスニングスコア270~5(490~10)の弱点

Weakness(弱点)

短い会話において、表現が直接的で、予想外の情報が提示されることがなくても、話の主旨、目的、基本的な文脈が理解できない。

長い聴解文において、広い範囲にわたって情報を関連付ける必要があるとき、もしくはやや難しい語彙が使用されるときは、話の主旨、目的、基本的な文脈が理解できない。

短い会話において、やや難しい語彙が使用されるとき、もしくは構文が複雑なときは、話の詳細が理解できない。否定構文が使用されるときは、詳細が理解できない。

長い聴解文において、解答に必要な情報が話の途中で提示されたときは、話の詳細が理解できない。言い換えられた情報や難しい文法的な構造が理解できない。

 

 

一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会『Score Descriptor Table(レベル別評価の一覧表)』TOEIC Program(最終閲覧日:2018年01月29日)

 http://www.iibc-global.org/toeic/test/lr/guide04/guide04_02/score_descriptor.html

 


3.1.3. グローバル企業のTOEIC L&Rスコアに対する評価について 

 IIBC(一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)の「上場企業における英語活用実態調査 2013年」では国内の上場企業全3,254社の人事部門を対象に調査が行われており、グローバル化に対応するため全社員に求められる期待スコアでは、次の図で示されるように、228社の約半数が500~695点と回答しており、全体の期待スコア平均は600点であった。また、同じ報告書によると、グローバル環境の中でビジネス展開が期待される国際部門では、円滑な業務遂行に必要なTOEIC L&Rスコアについて、228社のうち約7割の企業が700点以上のスコアを期待しており、その期待スコア平均は750であった。また、約4割の企業が800点以上のスコアを期待しており、約1割の企業が900以上のスコアを期待していた。

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続きはこちら


3.2.1. L2リスニングに対する苦手意識を生み出す要因について 
3.2.2. L2リスニングに対する苦手意識に対する対策について
3.3.1. 英語の発話速度について 
3.3.2. 英語の発話速度と理解力の関係について 
3.3.3. TOEICリスニングテストの発話速度について 
4. 分析結果 
4.1. TOEIC L&R スコアによる能力別の英語能力に対する分析について 
4.2. 英語自己評価と英語母語話者に対する英会話評価への分析と考察 ~TOEIC L&R スコアよる能力別評価~ 
4.2.1. 英語自己評価 
4.2.2. 英語母語話者に対する英会話評価 
4.3.1. 英語リスニングに対する苦手意識についてのアンケート分析結果 
4.3.2. L2リスニングに対する苦手意識と自信への分析と考察 ~TOEIC L&R スコアの4つの壁~ 
4.3.3. 日本語訛りのある英語に対する日本人英語学習者の苦手意識と自信の分析と考察 ~TOEIC L&R スコアによる5つの群分け~ 
4.4.1. L2リスニングの英語アクセントの聞き取り能力に対する分析と考察 ~TOEIC L&R スコアによる5つの群分け~ 
4.4.2. L2リスニングの英語アクセントの聞き取り能力と英語母語話者に対する英会話評価 
5. まとめ 

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